会社に有給を買い取る義務はある?退職時に認められるための交渉方法

会社に有給を買い取る義務はある?退職時に認められるための交渉方法
記事まとめ(要約)

・会社に有給を買い取る義務はなく、むしろ基本的には違法

・ただし、限られたときに買い取りが許されることがある

・退職時に有給を買い取ってもらうための手順(手順

退職が近いのに有給が残っている

消化が難しいのに買い取りを認めてもらえなかった

会社に義務はないのか知りたい

このようなお悩みがある方も多いのではないでしょうか。特に、次の職場への入社日が迫っている場合、引き継ぎに追われて有給を取り切れずに退職日が近づくこともありますよね。

実は、会社に有給を買い取る義務はなく、基本的には認められていません。しかしながら、例外的に認められるケースがあり、退職時の買い取りは認められています

この記事では、法律上の位置づけ買い取りが可能な3つの状況退職時に会社へ交渉する流れまで解説します。

最後まで読めば、あなたがどのパターンに当てはまるか、また具体的にどう動けば良いかが分かるでしょう。

本記事のライター:伊藤えま

採用・人事歴10年以上。2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP)取得済み。多くの従業員との退職時の交渉を経験してきた。採用統括責任者として現場で得てきたリアルな知見を、発信している。

>> さらに詳しいプロフィールはこちら

目次

会社に有給を必ず買い取る義務はない

会社が有給を買い取る義務はなく、そもそも買取りは基本的には違法です。

労働基準法に買取りは違法とする条文はありません。しかしながら、有給の趣旨に反するため、原則として違法であると解釈されています。有給は、本来「働く人が心身を休めるため」に設けられています。そのため、お金に換えると休暇の意味が失われてしまうと考えられているのです。

もし、買取りを自由にしてしまうと「お金を払うから休むな」と、従業員に休暇を与えない風潮が生まれ、本来の休暇が取得できなくなる恐れがあります。体調が悪いときに病院に行くことできず、健康を維持するのも難しくなるかもしれません。

買取りは基本的には違法ですが、例外的に認められるケースもあります。あくまでも「認められている」だけとなり、会社に義務はなく、判断は会社の裁量に委ねられています。ただし、社内のルールや規定で「未消化分を精算する」と規定しているときは、会社に買い取る義務が生じます。

義務はないが有給買い取りが認められる3つのケース

会社に有給を買い取る義務はありませんが、従業員にとって不利益にならない範囲で認められています。認められるのは以下のようなケースです。

退職時に未消化の有給が残っている場合

退職時に未消化の有給がある場合は、買い取りが例外的に認められます。

有給は、休暇を取って消化するのが前提です。しかしながら、退職する場合は、退職日までに有給の消化が出来ないこともあります。この場合、休暇で使うことができないため、例外的に認められています。

在職中に転職先を決め、入社日を決めてから退職を申し出る人は少なくありません。しかし、業務の引き継ぎなどで多忙な場合、有給を消化する余裕がないまま退職日を迎えてしまうことも。このような、会社の事情に配慮した結果、労働者が不利益を被る場合は、有給の買い取りが認められます。

未消化の有給が時効によって消滅する場合

有給には時効があり、付与日から2年経過すると消滅します。時効によってなくなる有給は買い取りが容認されています。無効となると本来の目的である「休暇を取ること」が不可能になり、本来の目的を損なうものではないと解釈されています。

ただし、この場合も任意であり、会社に強制力はありません。

有給を取得する権利を労働者が持っており、労働者が有給の取得を希望すれば、会社は断れません。そのため、有給を取得せず未消化となっているのは、労働者の自己判断によるものとされるからです。

会社により、労働者の不満解消や福利厚生の一貫として未消化分を現金化する制度を設けています。

法定日数以上の有給を会社が独自に付与している場合

有給の日数は、勤務期間や労働時間・労働日数により労働基準法で定められています。加えて、会社により定められた日数以上の有給を独自に設定しているケースもあり、福利厚生として会社が独自に付与している休暇は、買取りが認められます。

法律で定められた日数以上の有給は一般的に「法定外休暇」と呼ばれ、会社の裁量で設定しているため、買い取りも会社の自由裁量です。

働き方改革の取り組みとして「バースデー休暇」や「アニバーサリー休暇」など法定外休暇を取り入れる会社が増えています。長く勤務している従業員に対して「リフレッシュ休暇」として長い休暇を与える場合もあります。

退職時に有給を買い取ってもらうための手順と交渉のポイント

未消化の有給が残ったまま退職する場合、会社が買い取りに応じるのは認められています。しかしながら、買取りに応じるかは会社の判断に委ねられているため、誠意を持って交渉して認められる必要があります。ここでは、スムーズに買取ってもらうための手順を解説します。

就業規則を確認する

まず、社内のルール「未消化有給の精算について」記載があるかを確認しましょう。

多くの会社では、有給の買い取りについて社内のルールや規定で定めています。もし明記されていれば、規定通り会社に買い取る義務が生じます。

会社によって規定は異なり、以下のような条件付きで有給を買い取るケースもあります。

最終出勤日から退職日までに消化しきれない年次有給休暇が〇日以上ある場合、会社は残りの日数について賃金を払うこととする。

この場合、決められた日数以上の有給が残っていれば、交渉することなく買い取りしてもらえます。

買い取りは会社の裁量となるため、まずは就業規則に有給の買い取りについて規定がないかチェックしましょう。

会社と交渉する

規定がない場合、会社と交渉する必要があります。

退職時に未消化の有給があっても、社内のルールや規定に定められていなければ、会社に買い取りする義務はありません。前例がない会社では「買取りは違法」と認識している会社もあるかもしれません。その場合は、会社のメリットを伝えると認められやすくなるでしょう。

たとえば、労働者から「明日から有給をすべて消化して退職します」と言われた場合、退職日より14日以上前の申告であれば、会社は出社を強要できません。翌日から急に出社しないと言われた場合、引き継ぎも出来ず業務が進まないことで、取引先とのやり取りに影響がでるかもしれません。

しかしながら、有給を買取りすることで消化する日数が減れば、引継ぎに充てる時間も確保できて業務が滞ることもなくなります。

また、有給を買い取ることで、会社が負担する社会保険料を軽減できる場合もあります。社会保険料は、労働者と会社がそれぞれ負担しており、有給買い取りで退職日が早まれば、会社が負担する社会保険料が減ることもあるのです。ただし、買取りした有給分の賃金は、「給与」ではなく「賞与」として扱われ、賞与にかかる社会保険料が別途発生します。

有給を買い取ってもらったときの金額の計算方法

有給を買い取ってもらった場合、実際いくら支払われるのか気になる方もいるでしょう。有給買い取りの計算方法に、法的な決まりはありません。そのため、会社が独自で計算するのが一般的です。代表的な計算方法に以下の4つがあげられます。

通常賃金

所定労働時間働いた場合に支払われる賃金で計算する方法です。

計算方法
月給 ÷ 1ヶ月の所定労働日数 × 買い取り日数


月給28万円 1ヶ月の所定労働日数20日の場合
28万円÷20日=14,000円 1日あたりの通常賃金は14,000円
有給10日を買取りする場合 14,000円×10日=140,000円

平均賃金

平均賃金は、労働基準法で定められた計算方法で、手当や補填の算定基準となる金額です。有給休暇や休業手当などの基準にもなります。

計算方法
過去3ヶ月間の賃金総額 ÷ その期間の総暦日数(休日を含む) × 買い取り日数

標準報酬月額

標準報酬月額とは、社会保険料を決定する際に使われる基準で、月給ごとに区分で分かれています。

計算方法
標準報酬月額 ÷ 30日 × 買い取り日数

定額

有給の買取り金額は会社が任意で設定することが可能なため、会社が事前に定めた定額としていることもあります。日額を都度計算するのではなく「1日あたり12,000円」といった定額で計算します。

計算方法
日額 × 買い取り日数

退職時に有給を買い取ってもらうコツと注意点

会社に有給を買い取る義務はないことから、就業規則に規定がない場合、会社と交渉する必要があります。買取りをしてもらうためには、円満退職が不可欠です。円滑に交渉して買取りをしてもらうためのコツと注意点を解説します。

退職は早めに申し出る

退職を決断したら、なるべく早めに会社に退職を申し出ましょう。

民法上、退職の申し出から14日経過することで雇用契約は終了します。しかしながら、直前での申し出は、人員補充や引継ぎの時間を十分に確保できず、業務に影響が出ることもあります。早めに退職を申し出ることで、会社は対応する時間の余裕ができ、円満退職につながりやすくなります。

会社の事情を考慮した交渉が、有給買い取りを成功させる鍵です。会社に買い取りの義務はないため、退職で迷惑をかけないよう誠意を伝えましょう。引き継ぎに協力する姿勢を示し、円満に退職したい旨を伝えれば、会社も買い取りに応じてくれる可能性が高まります。

書面で条件を明確にする

買取りの条件は、口頭で確認を終わらせることなく、書面で条件を明確にしておきましょう。

口頭だけでは「言った言わない」のトラブルになることもあります。書面で残すことで、トラブルになるリスクを大幅に減らせます。買取りする日数、金額、支払い日などを記載した書面を作成し、会社と労働者の双方で内容を確認・保管するようにしましょう。

会社に手間をかけるとして書類作成を依頼しづらい場合もあるかもしれません。依頼したら「そんなことを言うなら買い取りはしない」と関係が悪化するリスクもあります。その場合は、自分で作成して会社に提示するのが確実な方法です。書面を作成したら、会社の担当者に内容を確認してもらい、双方で署名・捺印して一部ずつ保管するようにしましょう。

有給買い取り義務のよくある質問や疑問

有給買い取り義務についてよくある質問や疑問をまとめました。

退職時の有給買取を拒否されたらどうする?

まずは就業規則を確認しましょう。就業規則に買い取りの規定があれば、会社に買い取りする義務が生じます。

規定がなく買い取りを拒否された場合、基本的には法的に請求はできません。その場合は、有給を消化して退職するよう申し出ましょう。

有給休暇の5日取得が義務化されましたが、5日のうち未取得分は買い取りしてもらえる?

年5日の有給取得義務のうち、未消化分を買い取ってもらうことはできません。労働者を確実に年5日は休ませることを目的としているため、金銭の支払いでの代替は認められていないからです。義務の5日間は、必ず休暇として消化する必要があります。

退職代行を使った場合に有給は買い取ってもらえる?

退職代行の利用時には、有給買い取りが認められる可能性は低くなります。退職代行で退職を申し出た場合、会社との関係がドライになりやすく、買い取りに応じてもらうのは難しいのが現状です。有給消化はできるため、できれば有給消化で申し出た方が良いでしょう。

まとめ|退職するときの有給買い取り交渉は、円満退職が不可欠

この記事では、有給の買い取り義務について解説しました。

有給は休暇をとりリフレッシュする目的があるため、買い取りは原則違法とされています。ただし、例外的に認められるケースがあり、退職時に未消化の有給がある場合の買い取りも認められています。その場合も、会社に買い取りする義務はないため、円満に退職することで会社に買い取りが認められやすくなります。

さっそく就業規則を確認して、有給買い取りの規則がないかチェックしてみましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次