雇用契約書がもらえないのは違法?3つのリスクと安全に依頼する方法

雇用契約書がもらえないのは違法?3つのリスクと安全に依頼する方法
記事まとめ(要約)
  • 雇用契約書の作成に法的義務はないが、労働条件を書面で通知する義務はある
  • 契約書がない状態で働くと、給与や残業、退職でトラブルになるリスクがある
  • 労働条件の書面を波風立てずに受け取る方法がわかる
  • 書面がもらえない場合の相談先や対処法も確認できる

「入社して数週間経っても雇用契約書がもらえない」
「条件が口頭説明だけで不安」
「雇用契約書を依頼すると立場が悪くなるかも」

このように悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

本記事では、雇用契約書の法的根拠や、もらえない状態で働くリスク、穏便にもらうための例文をわかりやすく解説します。

最後まで読めば、自分の権利を理解し、安心して働くための行動計画が立てられます。

本記事のライター
伊藤えま
  • 採用・人事歴10年以上
  • 中途採用のみで900名以上を選考
  • 採用統括責任者として書類選考・面接・採否の決定を担当
  • 人事評価基準の策定・人事考課にも従事
  • 社員のキャリア相談を多数経験
  • 2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP)

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目次

雇用契約書がもらえないのは違法?企業に求めるべきあなたの権利

結論として、雇用契約書の作成に法的義務はありませんが、企業には労働条件を必ず書面で通知する義務があります。ここでは、法的根拠と労働条件通知書との違い、受け取るタイミング、控えがない場合の対処法をわかりやすく解説します。

企業には雇用契約内容を書面で示す義務がある

企業には、労働基準法により労働条件の明示が義務付けられています

(労働条件の明示)

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

出典:e-Govポータル

さらに、労働基準法施行規則第5条によって、明示は書面の交付によってされなければならないと定められています。ただし、労働者が希望した場合のみ、FAXやメールなどの方法での明示も可能です。

そのため、労働条件が曖昧なまま働かせることは、企業側の違法行為になる可能性があります。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

雇用契約書と労働条件通知書はよく混同されますが、実は役割が少し異なります。雇用契約書は、企業と労働者が同意した内容を証明する契約の証拠として扱われることが多く、双方が署名・押印するケースが一般的です。

一方、労働条件通知書は、賃金や勤務時間などの基本的な労働条件を企業が労働者に伝えるための書面であり、法律上の交付義務があります

どちらも働くうえで大切な書類ですが、法的な位置づけや目的に違いがあるため、理解しておくことがトラブル防止につながります。

違いをわかりやすくまとめた表はこちら

雇用契約書をもらうタイミングは?

雇用契約書は、一般的に下記のタイミングで提示されます。

  • 内定時
  • 入社時
  • 雇用条件に変更が生じたとき

入社前に提示される場合には「労働条件通知書兼雇用契約書」を渡されるケースもあります。

曖昧なまま働き始めるのではなく、労働条件に同意する前にもらうのが原則と覚えておきましょう。

控え・コピーがもらえない場合

雇用契約書を提示されたのに控えやコピーが受け取れない場合は、手元に残せるように依頼しましょう。契約内容が手元の記録として残っていないと、後から条件を一方的に変更された場合や「そんな約束していない」と言われたときに、労働者が不利になる可能性があるためです。

たとえば「会社で保管するため渡せない」と言われたり、「あとで渡す」と先延ばしにされたりするケースがあります。控えを依頼する際は「雇用契約書の控えをいただけますでしょうか」と伝えれば問題ありません。

控えを拒むのは、後から条件を変更する可能性も疑われます。契約内容は必ず証拠として手元に残すことが重要です。

では、そもそも雇用契約書がないまま働くと、どのようなリスクがあるのでしょうか。次項で、具体的な3つのリスクを詳しく見ていきましょう。

雇用契約書がもらえない状態で働く3つのリスク

雇用契約書がないまま働くことは、一見するとたいした問題ではないように見えるかもしれません。しかし、契約内容が書面で明確になっていないと、給与や労働時間、退職時のトラブルなど、さまざまなリスクが潜んでいます。

ここでは、具体的にどのようなリスクが考えられるのか、3つのポイントに分けて解説します。

給与・残業代・仕事など労働条件でのトラブル

雇用契約書がない状態では、給与や残業代の取り決め、仕事内容の範囲などが曖昧になりやすく、トラブルに発展するリスクがあります。口頭だけの約束では、条件が後から変わる可能性も否定できません。

たとえば、残業はないと聞いていたのに、実際は毎日1時間以上の残業が発生している場合、証拠がなければ残業時間についての交渉が難しくなります。一方、雇用契約書があれば交渉も容易です。

書面で明示されていない労働条件は、働く側に不利に働くことがあります。

退職・解雇で揉めるリスク

雇用契約書がなければ、退職や解雇の条件も不明確になります。たとえ口頭で退職時期について合意していても、会社との間で認識のズレが生じる可能性があるからです。

労働者への明示が義務付けられている項目として、退職に関する事項があり、自己都合退社の申し出の時期や、解雇の条件などが記載されます。契約書がないために、退職希望日を伝えたのに「退職までの日数が足りない」と主張され、トラブルになるケースがあります。

雇用契約書が手元にない状態は、後々の退職交渉で不利になりやすいのです

ブラック企業のサインである可能性

雇用契約書を交付しない、控えを渡さないといった対応は、会社の運営が不透明であるサインかもしれません。

経営者・管理者の知識が不足しており、労働条件の通知義務を理解していない場合、意図せず法律に違反する職場環境になっていることもあります。結果として、残業代の未払い、休日の不適切な扱い、給与体系の不明確さなど、社員に不利益が生じやすくなります。

労働条件を明確にしない企業は、将来的に社員との間でトラブルが発生するリスクが高いため、注意が必要です。

では、具体的にどのように依頼すれば穏便に進められるのでしょうか。次項では、波風を立てずに雇用契約書をもらうための手順や言い出し方を解説します。

雇用契約書を穏便にもらうための正しいステップ

雇用契約書の発行は義務ではありませんが、企業には、雇用契約書または労働条件通知書のいずれかで労働条件を通知する義務があります。どちらの書類もない場合、企業に作成を依頼する必要がありますが、依頼することで立場が悪くなるのでは、と不安に感じる方も多いでしょう。

ここでは、円満に雇用契約書を受け取るためのステップを解説します。

労働条件通知書を確認する

まずは、会社から「労働条件通知書」が交付されていないか確認しましょう。労働条件通知書が交付されていれば、雇用契約書は法律上不要です。

労働条件通知書には、記載が義務付けられている必須項目があります。以下の項目がすべて記載されているかを確認しましょう。

  • 労働契約の期間に関する事項
  • 就業場所および従事すべき業務に関する事項
  • 労働時間や休憩に関する事項
  • 休日や休暇に関する事項
  • 賃金に関する事項
  • 退職に関する事項

必須事項が不足している場合は、会社に確認して、全項目を記載した書面を再交付してもらいましょう。

雇用契約書交付を依頼する言い出し方|メール・口頭例文

労働条件通知書がない場合は、労働条件を確認できるよう、労働条件通知書もしくは雇用契約書の作成を依頼します。依頼する際は、会社に不信感を与えず、自然に依頼できる言い回しを知っておくと安心です。

ここでは、メールと口頭での例文を紹介します。

メール例文

件名:雇用契約書・労働条件通知書ご確認のお願い

お疲れ様です。〇〇です。

入社以来、業務を進めさせていただいておりますが、雇用契約書・労働条件通知書のいずれも受け取っておりません。

お手数ですが、ご確認いただけますでしょうか。

メールでの依頼は文面が残るため、後で証拠としても有効です。

口頭例文

入社してから、雇用契約書や労働条件通知書をまだ受け取っていないのですが、確認していただけますか?

口頭で伝える場合も、柔らかく伝えることで、相手にプレッシャーを与えずに依頼できます。もし依頼しても書面がもらえない場合は、最終手段として公的機関に相談する方法があります。

どうしても労働条件を書面でもらえない時は労働基準監督署へ相談

雇用契約書や労働条件通知書を穏便に依頼しても、会社から応じてもらえない場合があります。そんなときは、一人で悩まず、労働基準監督署(労基署)に相談できます。

労働基準監督署は、労働条件が法律に沿っているかを監督する公的機関です。口頭だけで不安な条件で働かされている場合でも、労働基準監督署に相談すれば、調査した上で、会社へ行政指導がされることがあります。会社へ作成を依頼した際の履歴などの情報を整理しておくと、労働基準監督署でスムーズに状況を説明できます。

会社とのやり取りに不安がある場合でも、専門家からのアドバイスを得ることが可能です。

雇用契約書がもらえない時のよくある疑問Q&A

雇用契約書がもらえない時のよくある疑問をまとめました。

試用期間に雇用契約書がないのは違法?

試用期間でも、会社は労働条件を書面で明示する義務があり、明示されない場合は違法です。口頭だけでの条件の説明は、法律上認められていません。会社に書面での交付を依頼しましょう。

試用期間と本採用で条件が異なる場合、本採用時にも雇用契約書をもらえる?

本採用へ移行するタイミングでは、条件が変わる場合があります。法律では、雇用契約内容に変更がある場合、新たに書面で明示する義務があります。

事前に聞いていた内容と雇用契約書の内容が違ったら?

事前に説明されていた内容と契約書の条件が異なる場合、契約書の内容が優先される可能性があります。ただし、事前説明の証拠(メールやメッセージ)があれば、交渉の材料として有効です。疑問点は早めに会社に確認し、記録を残すことがトラブル防止につながります。

雇用契約書がないまま即日退職・バックレはできる?

雇用契約書が交付されていないからといって、自由にバックレて良いわけではありません。双方が合意していれば、口頭でも雇用契約は成立しており、退職には原則、法律上での手続き(原則2週間前の予告)が必要です。

まとめ|労働条件は雇用契約書など書面で明示する義務がある

この記事では、雇用契約書をもらえない場合について解説しました。

労働条件は、雇用契約書や労働条件通知書などで、会社が明示する義務があります。給与や労働条件などのトラブルを避けるため、必ず書面で条件を確認しましょう。

退職を言い出せないときの対処法はこちら
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